震災復興へ向けての提言
〜 PC 技術の新たな貢献〜
公益社団法人プレストレストコンクリート工学会理事会

 未曾有の被害をもたらした東日本大震災から一年以上が過ぎた。2 万人近い命が失われ,多くの人が住居や財産を失った。被災地のがれき処理,原子力発電所事故による放射能汚染対策などが思うに任せず,いまなお,おびただしい人々が不自由な暮らしを余儀なくされている。これら被災者の方々が少しでも早く穏やかな暮らしを取り戻すことを切望せずにはいられない。
 震災後,当工学会も構造物の被災調査に参加し,各地域の構造物の損傷状況を確認した。その後,産官学からなる『東日本大震災PC 構造物災害調査委員会』を設立し,2011年12月には報告書を刊行し,セミナーを開催した。その中で,土木,建築を含めたPC 構造物の損傷を明らかにするとともに,今後取り組むべき課題についての提言をとりまとめた。そして今,『公益社団法人プレストレストコンクリート工学会』として新たな活動に踏み出した当工学会として,あらためて東日本大震災を受けての提言を宣言し,われわれ自身の活動の指標とする。

1 .地震動による被害に関して

 被災調査により明らかとなったのは,マグニチュード9.0,最大震度7 を観測する巨大地震であったにもかかわらず,構造物の損傷程度は,阪神・淡路大震災と比べると限定的であった点である。現行基準により建設,改築されたPC 橋,PC
建築物等の被害は軽微であり,現行基準がおおむね妥当であったことを示唆している。ただし一部において,予期していなかったゴム支承の破断損傷や,PC 橋の橋台背面の土砂流出などが生じた。
地震直後の速やかな復旧を可能とするためにも,その原因を解明し,対策を検討することが重要であり,関係団体による検証が進められている。
 一方,現行基準を満たしていないPC 橋,PC建築物では,鋼製支承変位制限装置の破壊,RC橋脚柱の曲げ破壊やせん断破壊,また,これらに伴う段差の発生などが確認されている。とくに,交通インフラの大きな被害は,その後の救助・復旧に大きな支障を生じさせるため,早急な耐震補強が必要である。現在,古い基準で設計,施工された構造物に対しては,改築,補強などの対策が順次進められているが,いまなお,対策がなされていない構造物も数多く存在している。インフラ
の耐震安全性を向上させるためには,このような未対策構造物に対する耐震診断,耐震補強を推進していくことが重要である。

2 .津波による被害に関して

 われわれが知る限りにおいて経験した最大級の津波により,多くの構造物が被災した。三陸海岸に建設された防波堤,防潮堤も多くが被災し,倒壊したものも少なくない。これらは,津波力の軽減や沿岸への到達時間の遅延効果など一定の減災効果を発揮したと報告されているが,倒壊を防止するためのさらなる改善が検討されている。
 PC 橋についても,津波により複数の橋梁が流失した。これら構造物に対して,津波に対する安全性を保証する設計が行われていれば,被災の程度を低減し,より円滑な救助,復旧が実現できたはずである。現在,防波堤や防潮堤などの護岸構造物以外には,一般に津波の影響を考慮した設計はなされていないが,津波の襲来が予想される地域では,その影響を考慮した計画,設計が必要である。想定される津波高さより高い位置に建設する方法,津波に抵抗できる耐力を有する構造などさまざまな方法が考えられ,その確実性,実現性を今後検討していかなければならない。そのためにも今回を含めた過去の被災事例を工学的に検討し,津波が想定される地域で考慮する津波外力,流失防止対策などに関する研究,開発を推進していくことが重要である。

3 .被災地復興と今後の社会資本整備へ向けて

 今回のような超大規模地震および津波に対しては,構造物の強化などのハード面の対策だけでなく,避難ルートの確保や訓練などのソフト面の対応を組み合せることの重要性が再認識されている。実際,精力的な避難訓練を実施した地域で,多くの生存者を得た事例が報告されている。そのためにも避難するべき高台がない地域では,人工地盤などによる避難エリアの確保などについても検討すべきであろう。被災地域の住民の安定した生活を確保するためには,速やかな復興計画の構築が望まれるが,その具体的な手段は必ずしも画一的である必要はない。立地条件,そこに暮らす人々の生活のあり方などに適した方法を採る柔軟性も必要である。
 これまで防災施設に対するPC 技術の活用は限定的であったが,今回の震災復興に向けて,新たなPC 技術の活用が期待される。住民の生活を考えれば復興のスピードも重要な要素であり,PCが得意とするプレキャスト化による工期短縮効果
が大いに期待されるところである。また,人命を守るための津波避難施設が注目されているが,建設地が海沿いであることを考えれば,耐久性の観点からコンクリート構造物の長所を生かした合理的な構造を模索していくべきである。さらに,PC の材料の多くが地産地消であり,被災した地域の活性化にも貢献することが期待される。
 一方,今後想定される東海,東南海,南海地震に対する社会資本整備も速やかに進めていかなければならない。東日本大震災の教訓から,何よりもまず構造物の耐震診断と耐震補強を早期に実現していくことが重要である。これにより,インフ
ラを含む構造物の被害を軽減できることは明らかであり,人命を守るためにも,震災後の救助,復旧のためにもきわめて有効な対策といえる。さらに津波に対しては,減災に向けた防波堤,防潮堤の補強および整備,橋梁等の流失防止,および避
難スペースの整備などの対策が必要である。また,これらハード面の対応と合せて,迅速に避難できるルートの確保および整備,津波観測システムの整備と避難誘導システムの再構築を進めていくことが重要である。
 PC 技術が日本に導入されて約60 年になる。この間にPC 技術は長足の進歩を遂げた。そして今,PC 技術の防災に対する新たな貢献が期待されている。そのための研究開発を推進し,情報発信していくことが,PC に携わる研究者,技術者の責務であり,当工学会の取組むべき課題でもある。